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名古屋地方裁判所 昭和29年(行)8号 判決

原告 天野新一

被告 国

一、主  文

買収処分の無効確認を求める原告の請求はこれを棄却する。

所有権取得登記の抹消登記手続を求める原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告が昭和二十二年十二月二日別紙目録記載(一)乃至(三)の各土地に対してなした買収処分は無効なることを確認する。被告は右(一)(二)の各土地につき昭和二十五年三月四日受附第四九八号を以てなした愛知県宝飯郡形原町大字金平字頂拝二十八番地山本たま名義の所有権取得登記、並びに右(三)の土地につき同年二月二十七日受附第三九五号を以てなした同県同郡同町大字金平字長根一番地市川武一名義の所有権取得登記の各抹消登記手続をなすべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和九年、別紙目録記載(一)(二)の各土地を訴外都築忠平より、同記載(三)の土地を訴外都築健治より夫々買受け、爾来自作地として耕作を続けて来たのであるが、その収穫は保有米にも足らず、所得税は賦課されて居らない程度の自作農民である。ところが昭和十九年一月十一日原告はその居住地たる塩津村(現在蒲郡市の一部)の土木総代という公職を拝命し、同年三月には妻チサが病気となつたため、労力の不足を来し、やむなく同年五月苗代田を除いて前叙の各土地を友人である非農家山本秋一に一時その耕作を依頼した。しかし翌二十年一月十一日原告は右土木総代を辞任し、同年三月には長男が学校を卒業し、農耕労力も十分となつたので昭和二十一年秋に至り右土地全部の返還を受けて、再び自作地として耕作を始め、その翌年八月十一日右賃貸借解約につき愛知県宝飯郡形原町農地委員会の承認を受けた。しかるに同年十一月二十一日同農地委員会は前記各土地について自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第一号に該当するものとして買収計画を樹立し、その旨公告したので同年十二月二日原告は自創法第五条第六号違反を理由として異議申立をなしたところ、同月二十二日同農地委員会は右異議の申立を棄却した。これに対し原告は更に同月二十三日愛知県農地委員会に訴願をなしたところ翌年一月三十日棄却の裁決があり、次いで愛知県知事は同委員会が承認した右買収計画に基いて、昭和二十二年十二月二日を買収の時期とする原告宛買収令書を同二十三年三月発行し、右令書はその頃原告に交付された。そこで原告は同年三月県知事に対し再審議の申請書を提出したが、未だその回答を受取つていない。以上の次第で原告所有にかかる前記各土地につきなされた買収処分は自創法に反する買収処分というべきであるところ、右買収処分が有効になされたことを前提として叙上(一)(二)の各土地については訴外山本たまに、(三)の土地については訴外市川武一に対し、夫々売渡されて請求趣旨記載の如く所有権取得登記がなされている。よつて右各土地に対する買収処分の無効確認並びに右各所有権取得登記の抹消を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告がその主張する各土地(以下本件農地と略称する。)を所有していたこと、昭和十九年一月に原告が塩津村土木総代となつたこと、同年五月訴外山本秋一に本件農地の耕作を依頼したこと、翌年一月に原告が右土木総代を辞任し、同年三月原告長男が国民学校を卒業したこと、形原町農地委員会が原告主張の日に本件農地につき自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当するものとして買収計画を樹立してその旨公告をし、原告がその主張の日に異議の申立次いで訴願をなしたが夫々棄却され、愛知県知事が所定の承認手続を経て原告主張の頃、その主張のような内容の原告宛買収令書を発行し、右令書がその主張の頃原告に交付されたことはいずれも認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。原告は昭和二十一年九月右秋一の死亡後、同訴外人の妻たまに対し本件農地の返還を要求し、同年秋稲を収穫した後、別紙目録記載(三)の土地を強引に占拠してこれを耕作するに至つたものであり、本件農地の中他の二筆については右たまにおいて買収計画樹立の日まで引続き耕作していたものである。したがつて本件農地は法定の基準日たる昭和二十年十一月二十三日現在秋一において賃借権に基き耕作していた小作地であり、又原告主張のように秋一に対する本件農地の賃貸が病気等の労力不足による一時賃貸であるという事実も認められず、本件農地の買収処分は適法のものであるから原告の本訴請求はいずれも失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

一、先ず原告の買収処分の無効確認請求について判断する。

別紙目録記載の各土地(以下本件農地と略称する。)はもと原告の所有に属し、原告において耕作していたが昭和十九年五月訴外山本秋一にその耕作を依頼したこと、同二十二年十一月二十一日愛知県宝飯郡形原町農地委員会が本件農地について自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三条第一項第一号に該当するものとして買収計画を樹立し、その旨公告したので、これに対し原告が異議を申立て次いで訴願をしたが夫々棄却され、愛知県知事が愛知県農地委員会の所定の承認手続を経て昭和二十二年十二月二日を買収の時期とする原告宛買収令書を同二十三年三月発行し、右令書がその頃原告に交付されたことは当事者間に争がない。

原告は昭和十九年一月十一日その居住地たる塩津村の土木総代を拝命し、同年三月妻チサが病気となつたため労力の不足を来し、やむなく同年五月前記秋一に対し一時その耕作を依頼したが、その後右土木総代を辞任し、長男も学校を卒業したので昭和二十一年秋には本件農地の返還を受けて爾来原告において自作地として耕作中のものであり、翌年八月十一日形原町農地委員会の賃貸借解約承認を受けているにも拘らず、同二十三年三月愛知県知事が本件農地について買収処分をなしたのは違法であり当然無効のものである旨主張するので考えてみるに、同二十年十一月二十三日現在においては、秋一において本件農地を小作していたことは当事者間に争なきところ、自創法附則第二項によれば農地委員会は同二十年十一月二十三日現在における小作地につき同法第六条所定の農地買収計画を定めることができる旨規定されているのであるから、右基準日における耕作関係に基いて本件農地につきなされた買収処分は適法のものというべく、又仮に原告の主張する如く本件農地が自創法第五条第六号所定の一時賃貸借地であり、且つ、農地委員会において同条同号所定の認定をなすべき農地であるとしても、かかる瑕疵は買収処分取消の事由となることあるは格別、買収処分を当然に無効ならしめるものでないと解するのを相当とするから、原告の該主張は到底採用の限りではない。なお原告が本訴を以て右買収処分の取消をも求めていると解し得たとしても原告が右買収令書の交付を受けたのは昭和二十三年三月であつて既に法定の出訴期間を経過しており且つ右処分庁を被告とせず国を被告としているのであるから本件においては右買収処分について取消事由の存否を判断すべき限りでない。よつて愛知県知事が昭和二十三年三月本件農地についてなした買収処分の無効確認を求める原告の本訴請求はその余の点の判断をまたず失当としてこれを棄却すべきものである。

二、次に所有権取得登記の抹消登記手続請求について判断を加える。

原告は本件農地の所有者として、叙上(一)(二)の各土地については前記たまの名義、(三)の土地については前記市川武一の名義にてなされている各所有権取得登記の抹消を国を被告として求めているのであるが、そもそも不動産物権者がその目的不動産につき不適法な登記が存在することを理由にその抹消登記手続を求める訴を提起する場合には、通常不適法として抹消さるべき登記簿上の名義人を被告としてなすべきものと解するのが相当である。けだし我不動産登記法上登記の抹消により直接に不利益を受ける登記名義人が抹消登記手続の登記義務者と解せられるからである。そうすると、原告において本件登記の抹消を求めるためにはその主張する登記名義人たるたま及び武一を被告として訴を提起すべきものであつて、国を被告として訴えた本件抹消登記手続請求訴訟は、国が正当なる当事者適格を有しないこと明かであるから、不適法として却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 木戸和喜男 和田嘉子 米原克彦)

(目録省略)

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